論文が出版されました Noshita et al. 2025 J. R. Soc. Interface
論文が出版されました.
Noshita, K., Nakagawa, T., Kaneda, A., Tamura, K., Nakao, H., 2025. The cultural transmission of Ongagawa style pottery in the prehistoric Japan: quantitative analysis on three-dimensional data of archaeological pottery in the early Yayoi period. J. R. Soc. Interface 22, 20240889. https://doi.org/10.1098/rsif.2024.0889
本研究は新学術領域出ユーラシアの統合的人類史学 - 文明創出メカニズムの解明 -の成果です.
プレスリリースもして頂きました.
内容紹介
弥生時代の遠賀川式土器の二次元/三次元の形態解析により,伝播ルートに関する従来の仮説を定量的に裏付けた研究です.
考古遺物の分析は類型学的分類に基づくことが多く,連続的な「かたち」の変化を定量的に扱うことはあまりされてきませんでした. 特に三次元形態データの解析ではその傾向は顕著です.
近年の三次元計測技術の発展に伴い,三次元データの取得自体はそれほど困難ではなくなりました. また幾何学的形態測定学的な手法は比較的確立しています. しかし,具体的に三次元データにおいて幾何学的形態測定学,例えば球面調和関数解析,を適用した事例は多くありません.
考古遺物の三次元形態の定量的な評価ができれば,農耕の伝播などの文化進化との関連の解析などが可能になると考えられます.
そこで,弥生時代前期の西日本を中心に広く出土する遠賀川式土器を対象に,二次元/三次元の定量的な形態解析をおこない,その伝播ルートの仮説との整合性を確かめました. 遠賀川式土器は,農耕と連動して北部九州から東海地方まで伝播していったと考えられています.
本研究では,これまでに報告書などに記載されている実測図として蓄積された二次元データ,三次元スキャナや写真測量により新規に取得した三次元データ,それぞれ約500資料からなるデータセットを構築しました.
このデータセットに基づき,幾何学的形態測定学的手法(二次元データには楕円フーリエ解析,三次元データには球面調和関数解析)を適用し,定量化をおこないました.
さらに,主成分分析に基づき遠賀川式土器の実測形態空間を構築し,遠賀川式土器がもつ形態的なばらつきを可視化しました. この上に出土した地域や時代をマッピングすることで,地域差や時代差,あるいはその両方を捉えました.
最終的に,地域差と時代差のパタンから遠賀川式土器が,日本海側と瀬戸内側の2つルートを経由して伝播した可能性が高いことを土器形態の定量的な変遷からも支持されることを示しました.
本研究を実施するうえで,多くの埋蔵文化財センターや博物館,研究機関にて資料の計測をさせていただきました. こうした蓄積なく,大規模なデータに基づく研究は不可能です. 改めて感謝いたします.
余談
球面調和関数解析のコードなどはGitHubにて公開しています(Noshita-2025-Ongagawa). 考古遺物への適用例としては割と珍しいと思いますので参考になれば幸いです. 基本的には球と位相的に同一視できる対象の解析に利用できますので,その他の対象へもぜひ試していただきたいです.
また,解析の流れはカタチの由来、データの未来にて(ざっくりと)日本語で解説したものがありますので,興味ある方はこちらもご覧頂けると嬉しいです.